恐ろしく奇妙かつ美しく、まさに「芸術は爆発だ!」(by岡本太郎)を文字通り貫き通したアングラムービー。鬼才・佐藤寿保監督が約5年ぶりに放つ映画『火だるま槐多よ』がSNSを中心とした熱狂的声に支えられて、ロングラン上映が決定した。
■1月19日まで上映延長
『火だるま槐多よ』は、流行性感冒により22歳で夭折した大正時代の芸術家・村山槐多による刺激的絵画『尿する裸僧』と怪奇小説『悪魔の舌』に感銘を受けた佐藤監督が、コロナ禍で表現を奪われた者たちへのエールと抑圧的時代への警鐘を込めて生み出した渾身作。現代日本を舞台に、表現に対する槐多の尋常ならざるパッションと彼の諸作品を独自に超訳した唯一無二のアヴァンギャルド・エンタテインメントだ。 絵画『尿する裸僧』に魅入られた女・法月薊(佐藤里穂)。ノイズとして聞こえる槐多の声をキャッチした男・槌宮朔(遊屋慎太郎)。超能力研究所から脱走した4人組パフォーマー(工藤景、涼田麗乃、八田拳、佐月絵美)。そんな彼らの出会いをきっかけに、地球滅亡のカウントダウンが始まる…。
■新進気鋭の佐藤里穂に大注目
大まかな粗筋からして一筋縄ではいかない規格外の物語であることは一目瞭然だが、実際に映画を鑑賞すると荒々しくも美しい狂的ウェーブに圧倒される。ピンク映画の枠組みをぶち破る危険かつ恐ろしい成人指定映画を1980年代中頃から精力的に生み出してきた佐藤監督のブレない趣味嗜好と、暗黒系絵画のような“映える”ヴィジョンの数々。本作のテーマである「表現の大爆発」をダイレクトに反映させたストーリー展開。その2つを支える里穂や遊屋らフレッシュ俳優陣の力演も見どころだ。 遊屋は全裸で砂浜をダッシュし、大海原に放尿。鉢に豪快に放尿する裸の僧がケバケバしく描かれた『尿する裸僧』を手に持った里穂は、真っ昼間の渋谷のスクランブル交差点をゲリラ彷徨。樹海にある奇妙な洞窟の中で全裸の2人が頭から大量の血を浴びる『キャリー』もビックリな衝撃的シーンもある。もはやこれは衝撃を通り越して、事件的映像だと言える。なお当該シーンについて里穂は「演技に没頭しすぎて途中で頭の中でプツン!という音がして、遊屋さんを噛み殺しそうになった」と怖い回想をしているが、実際の里穂は真面目でひた向きな性格の俳優。佐藤監督の特集上映にも足を運び、観客と交流を深めるなど勉強家でもある。そんな姿勢も含めて、今後の飛躍が期待される逸材だ。
■アーバンギャルド・松永天馬も大ファン
唐十郎主宰の状況劇場出身のベテラン怪優・佐野史郎も「久しぶりに自由な作品に出会えた。日本ならではのアンダーグラウンドの空気を伝えたい」とオファーを快諾。ノイズを発信する改造車を作った廃車工場の謎の男という、あまりにもミステリアスかつアングラなキャラクターを嬉々として怪演している。 メイン館である東京・新宿のK’s cinemaでの上映は1月12日までの予定だったが、チケットソールドアウト回も出た佐藤監督の特集上映の大盛況もあって、1月19日までの上映延長が決定。監督&出演者のトークイベントがほぼ連日実施される予定で、さらなる盛り上がりを見せそうだ。なお特集上映にはアーバンギャルドの松永天馬も一ファンとして来場。佐藤監督の伝説的長編デビュー作『狂った触覚』を鑑賞したことをSNSで報告している。
■日本を飛び出して世界へ爆裂
そんな鬼才監督の新作を海外が放っておくわけがない。1月25日にオランダで開幕するロッテルダム国際映画祭のハーバー部門に『火だるま槐多よ』が正式出品される。実は佐藤監督はヨーロッパ圏でカルト的人気を誇る数少ない日本人監督の一人であり、1995年に『狂った舞踏会』『視線上のアリア』、2017年に『眼球の夢』が同映画祭で上映されたこともある。 この度の快挙に佐藤監督は「ロッテルダムで大暴れしてきます!」と宣言するなど、ナニかを起こす気満々!?一大事になる前に、映画館で類まれなる事件的怪作『火だるま槐多よ』を目撃してほしい。新宿のK’s cinemaで1月19日まで。