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わずか3年間で500名以上の子どもを再登校に導いた独自のメソッドとは。不登校という大きな社会問題の解決に挑戦したい

『株式会社スダチ』代表・小川涼太郎さん

子どもの不登校を3週間で解決するサービスの提供で、多方面から注目を集めている『株式会社スダチ』代表の小川涼太郎さん。ただし、“注目”といっても、肯定的な注目と否定的な注目が混在。一方で、学校なんて行かなくてもいいという風潮が強くなっている現代において、スダチへ批判的な声もあります。 しかし、結果を出しているのは事実ですし、自分の信じた方法で結果が出れば、自ずと次の課題も見えてくるもの。スダチのビジョンは「誰もが巣立ちゆける世界を」。はたして小川さんはこれからの展望についてどう考えているのでしょうか? 目指すべきゴールは、『子ども達、そしてご家族が幸せな人生を生きていけること』。長期休み明けだからこそ伝えたい、これまでの軌跡ともどもお伺いします。

厳しい職場で大量の仕事をこなしたバイト経験によって、「成長することの楽しさ」を知った学生時代

――まずはこれまでのキャリアについてお伺いしたいのですが、小川さんのキャリアを語るうえでは、学生時代の焼肉屋でのバイト経験も外せませんね。

「はい。バイト経験を通して初めて自分の成長を強く実感できたことは、間違いなく今につながっていると思います。とにかく厳しい職場で仕事量も半端ではなかったのですが、盛り付け、皿洗いなどのポジションごとに“一人前”のお墨付きを得ていくことには、ゲームをクリアしていくような快感を覚えたし、受験勉強や部活では決して得られなかった感覚です。だけど周りを見渡すとそんなふうに楽しんでいる人はほとんどいませんでした。そりゃそうですよね。がんばっても同じ時給なのだから、少なくとも金銭的には、がんばる意味なんてないですから。一方で僕は、すべてのポジションをクリアした後、後輩を育成することにも大きな喜びを見出していたし、“どうすればもっとみんなが働きやすくなるのだろう?”と常に考えていました」

成長する楽しさをたくさんの人に知ってもらうにはどうすればいいか? 考え続けて出た答えは、「教育を通して世界を変えること」だった

――大学卒業後、コンサル会社に就職された理由も、バイト時代の経験と関係していますか?

「そうですね。コンサルの仕事を通して、世の中をよくできると考えたのです。しかし、入社してみてわかったことですが、コンサルタントとして他社に携わったとしても、各職場の環境を変えることはできないし、そもそもコンサル会社は依頼されないと何もできません。“ITツールを導入することでシステムを変えていきたい”との依頼であれば、それ以外のことは、提案はできたとしても実践できるかどうかは先方次第。悶々とした思いを抱えながらも仕事していたあるとき、周りを見渡したところ、バイト時代と同じで、同じ仕事をしていても、僕と同じくやりがいを感じている人もいれば、そうじゃない人もいると気づいたのです。言い換えると、同じ環境にいても、その環境を自分の成長に活かせている人とそうじゃない人がいた。ということは、その環境に辿り着くまでの過程にアプローチすることによって、より多くの人に“成長する楽しさ”を知ってもらうことができるのではないかと考えました。では、そのために何が必要かというと教育です。教育を通して世界を変えることは、もっとも世の中に貢献できることなのではないかと、そのとき初めて考えたのです」

厳しい父親を見て育ったことで、「周囲に期待しないこと」が大事だと悟った

――小川さんご自身は教育によって変わった経験はなかったのですよね?

「僕自身は世間的にみると一般家庭に育ったのですが、父親がとても厳しく、小さいころは“いかに父親を怒らせないか”を日々考えていたので、教育に限らず、大人に何かを期待することはありませんでした。“お父さんはそのうちきっと自分のことをわかってくれるはず”っていう感情があると裏切られちゃいますから。そのぶん、母親が愛情をいっぱい注いでくれましたが、父親のような大人がいることを早い段階で知ったことは、少なからず自分の思想に影響を及ぼしているように思います。改めて振り返ると、父親の厳しさがあったからこそ今の自分もがあるとも感じます。幼少期から厳しい環境に身をおいて来たからこそ、大人になった今も常に強い気持ちを持つことができています。そういう意味では父親に感謝しないと。と感じています。」

「会社員を続けていては自分が本当にやりたいことはできない」と気づいてすぐ、退職日を1年後に設定した

――相手に変わることを求めるより、自分が変わったほうが早いし確実ですもんね。そうした考えもあって、コンサル会社を退職して起業されたのでしょうか?

「サラリーマンである以上、どこの会社に入社したとしても、自分が本当にやりたいことを追い求めることはできないですよね。僕は入社して3年間で辞めたのですけど、その1年前には“このままここにいることはもうできない”という感覚が拭えなくなっていて、“今から1年後に辞める”ということを先に決めてしまいました。先立つものがあったわけではありませんが、幸い、フリーのコンサルタントとして仕事を取りながら、日本の教育を変えていくために何ができるかを考え、通信制サポート校【逸(いち)高等学院】の設立を決めました。」

成功するイメージを反芻することで、思い描いた未来が現実になる

――しかし、結果として2年間でひとりも生徒が集まらなかった、と。

「当時、僕がやりたかったことと世間のニーズがまったく一致していなかったのですよね。ビジネス用語でいうと、自分がやりたいことに沿って製品やサービスを作っていくことを“プロダクトアウト”、市場のニーズを汲み取って製品やサービスを考案することを“マーケットイン”といいますが、前者しか考えていなかったことで大失敗に終わったというわけです。もちろん、プロダクトアウトで成功する例もなかにはありますが、このときは違いました。ただ、失敗したからといってそれで終わりではなく、その先に成功が待ち受けているという自信があったので、“諦める”という選択肢はありませんでした。このときに限らず常にそうなのですが、僕は何をするときも、成功するイメージを頭のなかで何度も思い描いて、自分自身に成功したことが現実だと思い込ませています。すべて僕の妄想だから、どんなふうにストーリーを展開させようが誰にも邪魔されることはないし、どんどんいい方向に上書きしていくこともできます。もちろん、不安がよぎりそうになることもありますけど、自分で自分を疑いかけたときにうまく阻止することが大切です。」

「3週間で不登校を解決するメソッド」の存在を知ったときは自分自身も半信半疑だった

――その結果、新たなサービスとして、不登校児を平均3週間で再登校させるための完全オンラインサポートを開始されています。

「実は、逸高等学院を立ち上げ準備と並行して、個人的に不登校児のボランティアをはじめていたのですが、対面支援で結果を出せなかったことから、打開策を見つけるためにさまざまな本や記事を読み漁り、各種教育関係のイベントに参加するなか、“3週間で不登校を解決するメソッド”を用いて登校支援しているNPOの代表と知り合うことができました。しかし、いま僕がネットユーザーや同業者から叩かれているのと同じように、僕自身も最初は“そんなことできるわけがない”としか思わなかったんです。ただ、他に選択肢があるわけではなかったし、受講料を支払えば、習得したメソッドを自由に使って支援していいという話だったので、物は試しと受講を決断したところ、これまで自分が学んできた内容とは正反対のことばかりで目からうろこが落ちる思いでした。」

「子どもの意見を尊重して、すべて子どもの思う通りにさせる」「子どもに機嫌よく過ごしてもらうために自由にゲームさせる」はすべて間違い

――たとえば、どんな点に違いがあったのですか?

「従来は、引きこもってゲームばかりしている子どもに対して、“ゲームは好きなだけやらせてOK”という考え方でしたが、このメソッドでは、デジタルの娯楽をいったん一切排除させます。“そんなことしたら子どもの機嫌が悪くなって大変じゃない!”と思うかもしれませんが、じゃあ、“好きなだけゲームをしていいから、学校にも行こうね?”と呼びかけた結果、再登校できる可能性はどれくらいあるのかといったら、ほとんどないのです。 実際に、世の中では一度不登校になると8割以上の子どもは学校に戻れていないというデータもあります。子どもに好きなだけゲームさせていたのでは、現実は何も変わりません。加えて、このメソッドでは、親子の関係を見直すことや、生活リズムを整えることもとても大切とされています。従来の考え方だと、“子どもの意見を尊重しましょう”だったのが、“ダメなことはダメときちんと教えることが大切”、朝起きられないことは“しょうがない”ではなく、“生活リズムを整えることは子どもの心身健康ためにも重要”。どちらが信じられるかというと、僕には後者一択としか思えませんでした。」

子どもとは一切関わらず、親との面談およびフォローのみで不登校を解決

――「3週間で不登校を解決するメソッド」を習得された後、さらにアップデートさせたものを「不登校支援サポート スダチ」として提供されていますが、無料相談から再登校サポートまですべてオンラインで完結するそうですね。

「はい、そうです。このメソッドは不登校児の親が受けるもので、サポートにあたる弊社メンバーはお子さんとは一切関わることがありません。サービスを検討されている方は、まずLINE登録と完全無料の個別相談を経て、オンラインでメソッドを学んだ後、決められた期間毎日、サポーターとメールでやりとりしていただくことになります。」

不登校の問題解決のためには、親が変わることが絶対的に必要

――では、3週間での不登校解決実現のためには、親が変わることが求められるということですね。子どもが不機嫌になることが怖くて変われない親御さんはいないのでしょうか?

「いらっしゃいますし、サポートの途中で諦めてしまう方もおられます。それは我々のフォローの至らなさということにもなりますが、まずは、親御さんが覚悟を決められることが絶対的に必要です。ただし、たとえばゲームを取り上げられたことでお子さんが暴れるケースもあるので、万が一に備えて手筈を整えておくことなどは先に指導させてもらいます。また、3日間暴れるお子さんはいても、1週間暴れ続けることなんてほぼないということも先に伝えるので、ある程度の心構えはできるはずです。」

子どもが暴れるからと不登校解決を諦めると、子どもから「親は自分のいいなりだ」と評価される

――親御さんもしんどいことは想像できますが、諦めてしまったら、その先もずっと子どものわがままを許し続けることになってよりしんどいですよね。

「自分が暴れたことで親がおとなしくなったら、子どもは“親は自分のいうことはなんでも聞くんだ”と評価してしまい、関係性がさらに悪化しますし、そのまま大人になったら手の施しようがなくなるケースもあるかもしれません。」

ニート・引きこもりの社会問題解決にも挑みたい

――2020年のサービス開始からこれまでに累計500以上が再登校できているとのことですが、教育を通して世の中をさらによくするために、今後の展望として考えていることを教えてください。

「スダチという社名の由来通り、“誰もが巣立ちゆける世界”の実現を目指して、支援実績をさらに増やしていくことはもちろん、それ以外にもいくつかの事業展開を考えています。ひとつめは、“ニート・引きこもりの方への支援”です。日本国内には約100万人の引きこもりがいるというデータがありますが、不登校解決のメソッドを応用することで、この社会問題解決の糸口も見つかると考えています。ニートは学生ではないので、“(学校という)戻るところがあるかどうか”という違いはありますが、根本的な問題点は同じはずです。実際、過去に親御さんからの要望があって20歳のニートの方に対してメソッドを使ってもらったところ、就職まではいっていないものの、家から出られるところまでは実現できました。ただし、ニートや引きこもりの場合、不登校児よりも年齢が高い分、親に抵抗する力も強いので、慎重に対応していかなければならないと考えています。」

うつ病への新しいアプローチも模索中

――そうしたリスクを背負ってでも、社会問題解決に挑みたいという気概が感じられます。

もちろん怖さはありますが、たとえば外科医が生存確率の低い手術を引き受けないかというとそうじゃないですよね。患者やその家族もそれをわかったうえで、覚悟を持って依頼すると思いますが、ニートや引きこもりもそれと同じで、“なんとかしてこの人の人生をいいほうへ変えたい”と、リスクを背負う覚悟をしなければ改善できないと思っています。そして2つめの展望は、うつ病などの精神疾患に対する新しいアプローチです。これまでにスダチで支援してきたお子さんのなかにも、精神疾患を抱えている子がたくさんいたし、症状が改善して元気に登校できるようになった姿をみてきたことで、薬とは違うアプローチで精神疾患を改善できるという確信があります。もちろん、お医者さんだからこそできることもあると思うのですが、反対に僕らにしかできないこともあります。具体的には、“毎日伴走し続けられる”ということです。不登校改善のメソッドでも、お子さんが再登校できるようになるまで毎日親御さんとやりとりすることを大切にしていますが、この伴走があるかどうかによって結果が大きく違ってくると信じています。」

子育てにおける「やるべきこと」「やってはいけないこと」の項目をまとめた「子育ての教科書」を作りたい

――3つめとしては、子育てで悩むすべての人に「子育ての教科書」を届けることを掲げていらっしゃいます。

「これまで不登校改善のメソッドを実践してきたなかでも確認できたことですが、子育ての方法はみんな違っていいものですが、ベースの部分に関してだけは“正解”が存在するんです。たとえば、“好きなだけゲームさせること”をはじめ、“やったらいけないこと”はたくさんあるし、“ダメなことはダメという”を筆頭に“やらなきゃいけないこと”もたくさんあります。そのすべてを整理して伝えるだけでも、不登校がこんなに大きな社会問題にならないはずです。具体的にどんな形で教科書を展開していくかは模索中で、冊子ではなく、動画コンテンツなどとして展開していくことも検討しています。」

不登校という社会問題を根本的に解決するためには、国や自治体との連携が不可欠

――4つめの「国、自治体との提携」はさらにハードルが高そうです。

「不登校の問題を解決するために、国はスクールカウンセラーの配置にこれまで多額の予算をかけてきているにも関わらず、不登校児の数は倍増しています。一方で、スダチで支援させてもらったお子さんたちの90.4%以上が再登校できています。私達は、このメソッドによって不登校という大きな社会問題を解決できるという確信を持っています。今の状況を変えることは一筋縄ではいかないし、時間がかかると思いますたくさんの批判も受けるかもしれません。一生かけて挑戦しても100%変えることはできないかもしれないけど、それでも、自分たちにできることを一つひとつクリアしていくことで、少しずつでも世の中を変えていきたいです。」

▶小川涼太郎
株式会社スダチ 代表取締役 1994年生まれ、徳島県出身。

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