関東大震災発生5日後に起こった惨劇を描いた映画『福田村事件』が、関東大震災から100年目の節目となる9月1日に全国公開。同日には都内映画館で初日舞台挨拶が実施され、井浦新、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、木竜麻生、向里祐香、杉田雷麟、カトウシンスケ、水道橋博士、豊原功補、そして森達也監督が登壇した。
満員御礼の観客席を前に主演の井浦は「満席の状態の映画館…いいですね」と声を詰まらせながら念願の封切りに感無量の様子。「森監督からオファーを頂いたときにその場で『どんなことがあっても参加したいです!』と伝えました。森監督が劇映画でどのように現場の中心に立ってどのように映画作りをされるのか?それを最前線で何が何でも見たいという思いがありました。そして皆さんに観ていただいた作品の熱量が、そのまま撮影現場にはありました」と熱狂の撮影を振り返った。
田中は「撮影中からたくさんの方々に『楽しみです!観たいです!』と今までずっと毎日のように仰っていただきました」と本作の注目度の高さに触れて「私はこの映画に関わるまで、この事件のことを知りませんでした。これほどまでの大きな事件がなぜ知られなかったのか?100年前のことでした…で終わることではなく、現代の私たちの生活にもこの事件からの問いかけは沢山あるはずです」と訴えた。
役衣装を身に着けた永山は「企画書と準備稿を頂いて内容を知った時に、僕の出番をもっと増やしてほしいと言いました。そうしたら…少しだけ出番が増えました」とユーモア交じりに明かしつつ「素晴らしい映画が出来上がりました。日本に一石を投じる作品に参加出来て幸せです」と喜んだ。
東出は「この映画の企画者である荒井晴彦さんが『ハリウッドだったら4回くらいリメイクされていもおかしくないくらいの大きな題材。それなのに日本ではなかなか作れない』と仰っていました。日本の大手の配給会社やテレビ局が出資するものでは、差別の問題や国の問題、同調圧力などは描き切れないかもしれない。しかし楽しいエンタメだけではなく、負の遺産なども含めて、なぜ起きてしまったのだろうか?と考えながら物語として紡いでいくのも映画人としての大切な仕事だと僕は思います。今後もそのような仕事に携わることが出来れば」と気持ちを新たにしていた。
ドキュメンタリー作家として知られる森監督にとって、初の劇映画挑戦。「オウム真理教のドキュメンタリーを撮って以降、集団のメカニズムが自分の中でテーマになっていました。福田村事件は、朝鮮人差別と被差別部落問題という日本の近代のゆがみが2つ重なっており、単なる加害側と被害側だけではない重層的な視点が入れられる。その意味でもこの題材は劇映画にふさわしいと思いました」と解説した。
そんな森監督の演出について井浦は「とても優しく、俳優が現場でやることを否定せず一度受け止めてくれる。台本はあるけれどワンシーン、ワンシーンがライブであり、ドキュメンタリーのようだった」と回想。森監督は「現場ではスタートとカットしか言っていません。それだけ俳優さんたちが役作りをしてくれたということ。皆さんが自分の中で役を深めてくれていたので、僕から何かを言うことはありませんでした」と俳優陣に全幅の信頼を寄せていた。