テレビから流れてきた耳に残るCMソング、夢中でプレイしたゲーム、気づけば口ずさんでいたあの名曲。どれも別々の人が作ったと思っていたのに、実はすべて同じ人によるものだったなんて!そんな衝撃を受けた、佐藤雅彦(さとうまさひこ)さん。現在、横浜美術館では世界初となる佐藤さんの創作の歩みを紹介する展覧会が開催中です。その独自の発想と表現の広がりを実際に体感してきました。

佐藤雅彦さんは、こんな人
1954年、静岡県戸田村(現・沼津市)生まれ。東京大学教育学部を卒業後、広告会社・電通に入社し、CMプランナーとしてのキャリアを歩み始めました。湖池屋『スコーン』『ポリンキー』、NEC『バザールでござーる』など、誰もが一度は耳にしたことのある広告を次々と生み出し、その名を世に知らしめます。その後独立し、企画事務所「TOPICS」を設立。ゲーム『I.Q』、CD『だんご3兄弟』といった大ヒット作を世に送り出し、ジャンルを横断した独創的な活動を展開。1999年からは慶應義塾大学で教鞭を執り、研究と教育を軸に『ピタゴラスイッチ』『アルゴリズム体操』など、子どもから大人まで幅広い世代に親しまれる作品を生み出します。その後、東京藝術大学大学院で後進を育て、紫綬褒章や芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。現在も名誉教授として活動中です。

展覧会で体感した『作り方を作る』の世界


佐藤さんの仕事の根底にあるのは、『作ること』ではなく『作り方を作る』という発想です。キャラクターや物語を描くだけではなく、物事の仕組みそのものを考え直し、新しい方法論を提示する。その姿勢が、広告から教育番組、ゲーム、音楽にまで広がり、一見バラバラに見える作品群を生み出す原動力となっています。今回の展覧会は、その『作り方を作る』という思想を実際に目で見て、耳で聴き、身体で感じ取ることができる貴重な場でした。

会場の前半では、大人が夢中になる内容が多い印象。過去に放映された数々のCM作品の映像コーナーでは、誰もが一度は見たことのあるCMが並び、笑い声をあげながら楽しそうに沢山の方が見ていました。短い映像の中に、計算し尽くされたユーモア、音やリズムが潜んでいることに気づかされ、佐藤さんのセンスの鋭さを実感します。


会場の後半は、子どもたちも夢中になれる展示が続きます。『ピタゴラスイッチ』を中心に、教育と遊びを融合させた作品が並び、大人にとっては懐かしさを感じる空間です。世代を超えて楽しめる仕掛けが随所にあり、親子連れの姿も多く見られました。

特に印象に残ったのが、東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻教授である桐山孝司さんとの共作『計算の庭』という展示。ここでは、人が空間の中でどのように動き、選択し、振る舞うのかを観察できます。単に眺めるだけでなく、来場者自身もその一部として組み込まれることで、まるで自分が実験台になったかのような感覚に。解説を読み進めると、その行動がどのように分析され、どんな意味を持つのかが分かり、まるで研究室で立ち会っているような気分。普段は味わえない、実験の裏側を覗き込むような体験は、とても興味深く面白かったです。


展示会を訪れる方は、できるだけ時間に余裕を持って行くのがおすすめ。今回、平日の午前11時からの回に行き、夏休み明けや連休明けで、空いていると思いきや、映像ブースは常に満席状態。3時間以上かけても、すべてをじっくり鑑賞するのは難しいほどの充実度でした。佐藤さんの世界観に触れるまたとない機会。『作ることが好き』『考えることが好き』そんな方は、ぜひ横浜美術館を訪れてみてはいかがでしょうか。

▶横浜美術館リニューアルオープン記念展 佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)
【場所】神奈川県横浜市西区みなとみらい3丁目4-1横浜美術館内
【会期】2025年6月28日(土)〜11月3日(月・祝)
【時間】10:00~18:00
【休館日】木曜日
※ただし、10月4、11、18、25日、11月1日(いずれも土曜日)は20:00まで
※入館は閉館の30分前まで
公式Webサイト